★過去とどう付き合うか
「『あたしO型だから、済んだことは気にすることができないの』って、言い方をすると面白いよな」
「何それ」美紗ちゃんが訊いた。神経衰弱ははじまったばかりで余裕があった。
「だから、アイデンティティなんてものは『私は何々だ。だから私には何々ができる』っていう肯定に働くものじゃなくて、『私は何々だ。そういう何々でしかない』っていう否定的な限定だっていう認識があると面白いっていうことだよ」
季節の記憶 (中公文庫) 保坂 和志 / 中央公論新社 / 1999-09 /
「あのとき、あんなことがなかったなら……こんなことにはならなかった」
過去を振り返っては、私たちはよくこのようなことをつぶやいているのではないでしょうか。
残念な過去というのは誰にでもあります。
中には「これさえなければ、俺の人生も変わっていたはずだ」と叫びたくなるようなものもあるかも知れません。
しかし過去を非難し、否定することで現在の不都合の理由付けをするというのは、現在をありのままに生きることを妨げます。
そこで、いいことでも悪いことでも「あのとき、あんなことがあったからこそ、今の自分があるのだから」と認識すれば、過去も肯定することが出来るという考え方があります。
たしかにもっともだと思える考え方ですが、どこかこじつけめいた感じが残る気がするのです。
最初の言い方は、過去を否定することで何とか現在の自分を釈明しようとしています。
後の方の言い方だで気になるのは、過去の流れをいまに持ち込まなければならないことです。
なんとか、いまだけで処理できないものでしょうか。
ところで、冒頭に引用した文章は何なのかと、気にされている方もいらっしゃるでしょう。
少し視点を変えて、「私は何々だ」ということを考えてみましょう。
冒頭の文章は、血液型で人の性格を規定するということに関しての会話の一部です。
『あたしO型だから、何でも直感で判断するの』
『あたしO型だから、済んだことは気にすることができないの』
血液型が影響を与えるかどうかはともかく、私たちはこのように自分のアイデンティティというものを、肯定表現と否定表現の集まりとして認識しているのかも知れません。
だから、なにかが話題になると「私は○○系だとか」「私は◇◇はだめ」とか分類したくなります。
そして、そのように考えたくなるのは、自分を分別することで、何かのメリットを感じているからだと考えられます。
メリットを考える前に、私たちは何かを見て対象を認識するときに何を行っているのでしょうか。
たとえばリンゴを見たとき、私たちは大ざっぱに丸い形、赤い色、大体の大きさ、ヘタの部分の特徴などから、これはリンゴだと認識します。
細かいことまでチェックせずに、非常に大ざっぱなとらえ方をしています。
しかし実用的にはこれくらいのとらえ方が丁度いいのです。
リンゴをいくつか並べてみれば、今いったような共通点は見いだせても、一つ一つを比較すれば細かい部分で非常に多くの相違点があるわけです。
しかし、色の濃さや斑点の付き方や、微妙な形の違いを細かく見ることは、必要がなければ行いません。
先程いったように、実用的にはこれくらいのとらえ方が丁度いいのです。
また、いちいち細かい部分まで平等に見ていたのでは、それが何であるかを判定するのが困難になってしまうから、そのように特徴をつかんだとらえ方を身につけているとも言えます。
たとえば、実際にリンゴを見ていないで誰かが説明する特徴を聞いて、何であるかを当てようとしているならどうでしょう。
ポイントをつかんだ説明を受ければ、すぐにリンゴを思い浮かべますが、事細かに見える部分を順番に説明されたら苦労してしまうでしょう。
これから類推すれば、私たちが自分のアイデンティティをとらえる場合にも、白黒ハッキリしていた方が都合がいいことがあるのだろうと考えられます。
なにかの行動を起こそうとするときに、自分の方針があった方が動きやすいのでしょう。
ものを分類することが役に立つと分かった私たちは、人を分類することも同様に始めます。
それは、同時に自分自身を分類することでもあります。
キャラクターのハッキリしない人物が登場する小説は、呼んでいても状況が分からず面白くありません。
キャラクターがつかめてくると私たちは安心します。
この人は、自分とこういう所が似ているみたいとか、あるいはこの人は鬼のような悪人だとか、イメージをつかめてくると理解できるのです。
さてそこで過去のは何に戻りますが、自分の過去というのも、自分に役立てるためには分類しなければなりません。
自分が思い描いている過去というのは、先程のリンゴと同じように、自分の役に立つ情報で成り立っています。
けっして、過去の事実を忠実に思い浮かべるわけではありません。
わたしたちは、どんなときに過去を思い出すのでしょうか。
まず思い出そうとしなくても、急に思い出される反射的な気分や曖昧な情景といったもの、これは何ともコントロール出来ないもののようです。
何かの恐怖症であれば、即座に反応してしまうわけで簡単には制御できません。
しかし、それとは質の違った過去の思い出し方があります。
それは、私たちが過去を必要とする場合に思い出すということです。
「目の前にあるクソいまいましい現実、いまの自分の責任じゃない」、そう考えたくなるときも、私たちはその原因となった過去に登場願いたくなるのです。
「あのとき、あんなことがなかったなら」、いまの自分はいないのだから、いまの現実は違っているはずだから、だからいまの自分には責任はないと考えたいのです。
「起きたことは仕方がない」、「過去は変えられない」と納得しようと言い聞かせてみても、本当に納得するのは簡単でないことは経験からお解りかと思います。
ところがその一方で、私たちは普段から、変えられないことでもあっさり受け入れることだってやっているのです。
たとえば、朝起きたら雨が降っていた。
一時的にいやな気分になる人もいるでしょうが、雨は自分に都合が悪いからあってはならない事だと、いつまでも主張し続ける人がいるでしょうか。
天候はどうにもならないからとあきらめる事は、それほど難しいことではないでしょう。
受け入れが難しいのは、いったいなにが違うのでしょうか?
A.出来事が受け入れられないほど、いやなこと悲惨なことだった。
あるいは、
B.もしかしたら、変えられると思うからいつまでも過去が気になる。
このような、系統の違う要因がありそうに思えます。
AとBでは随分事情が違います。
Aは変えようがないと諦めていても気になるのであるし、Bはまだ変えられると思っていたり、やり残している感じがあるから気になるのです。
なんとか対処できる過去の出来事もあれば、手を出しようのない過去もあります。
話があれこれ飛びましたが、この辺で新しい見方を考えましょう。
それは「ひたすら現在に取り組むということ」です。これは過去に何があったとしても出来ることです。
いまの問題はいまの時点で何とかしようと決めて、過去に戻ることをやめることならなんとか出来そうです。
そうやっていまが充実してくれば、過去のせいにしたくなることも、だんだんなくなってくるでしょう。
いまがうまくいかないから、つい習慣で過去を引き合いに出したくなっている自分がいないでしょうか。その瞬間をとらえてみましょう。
過去を引っ張り出すと、一時的にいまの不都合をごまかせるかも知れませんが、その後に起きることは、不都合な「いま」といまいましい「過去」の両方に責め立てられることです。
過去を持ち出さずに、いま目の前のことだけに、目をそらさずに取り組めば大抵のことは何とかなるわけですし、そこでその出来事を終わりにすることができるのです。
次に、自分がどんなメリットから目の前の出来事に善し悪しをつけようとしているのか、それ以外の選択はないのかを考えてみましょう。
無意識に過去の判断から、これはやっかいだと決めつけていないでしょうか。
いままでも正面から向き合うのを避けていたから、今度もそうしようと思ってはいないでしょうか。
そして「そのまま受け入れることもできる」という今まで避けていた見方が、選択肢に入らないだろうかと考えてみるのです。
ものごとは、それ自体が良いわけでも悪いわけでもありません。
自分にとっての関心ごとが、価値を決めているだけです。
どのように価値を決めるかどうかは、自分次第で何とかなることです。
「どうしてそうあって欲しいと思い込んでいるのだろう?」という問いかけをしてみましょう。
「少々都合が悪いことがあってもいいから、大ざっぱに何でも受け入れてしまおう!」
こう宣言して、細かいことをチェックするのをやめてみれば、どれほどスッキリするでしょう。
是非一度試して見て下さい。
思っているほど、現実は悪いものではありません。
それと過去マニアが見落としている重大な事実があります。
過去に時間を取られていると、いま目の前のことを簡単なうちに片付けられなくなるということです。
これならすぐできると思って、目の前のことを放り出して過去を見ていると、今なら簡単にできたはずのことが、いつのまにか大きなやっかいごとに変身してしまうのです。
そうなってしまってから、過去マニアは、またひとつストックが増えたと驚き、またひそかにほっとするのです。
小さな後悔で時間を費やしているほど、人生は長くありません。
どんなに作戦を立てようと、実行できるのは「いまここ」でしかないのです。
振り返らなければ、ただ過ぎていくことに、自分からわざわざ手を出さなければいいのです。
★ひそかな反発
何かを嫌がっている自分に気づくことがありますか。
自分の内面からの、ひそかな反発に気づいてあげることは、思っている以上に重要なことです。
そんな大したことじゃないから、と軽く扱っているかもしれませんが、いつまでも反発をやめない自分に気づいたら、何を訴えているかをじっくり検討してみましょう。
軽い気持ちで、見過ごしてきたことが、積もり積もって大きな結果となって現れることもあります。
それは、仕事の失敗であったり、身体的な病気であったり、あるいはやる気のなさや、自分を罰したくなるような罪悪感となって現れる場合もあります。
何度も内面から訴えかけてくるものは、そのまま無視し続けていても解決しません。
その力は、思っている以上に強力です。
その由来は、もしかするとこども時代の経験から来るものかもしれません。
こどもは自発的な行動を自由にとれる場合もありますが、親と接する中で、苦痛を避ける方法と、承認を得るための方法を見つけ出していくことになります。
親から与えられる笑顔や、自分をうれしがらせれてくれる反応は、自分が正しいことをしていることや、承認されていることを意味するのだと受け取ることができるでしょう。
また、親の冷たい反応や、怒った表情からは、間違ったことをしたという苦痛と、失跡という観念を受け取ることになります。
こどもが「~ねばならない」を学んでいくのは、このように、ほめられたり叱られたりすることを通じてであるわけです。
「ハーイ今やります」~適応の3パターン
常識的に考えても、親からの影響というのは、大きいものだとわかっていると思います。
それは自分が依存するしかなかった時期に身に付けた、非常に根源的なものであるだけに、大人になって身につけた行動習慣よりもずっと根深いのです。
その頃に身に付けた信念や反応のパターンは、理屈でおかしいと思っただけでは、なかなか解放されません。
たとえば、あなたが販売関係の仕事に携わるとしましょう。
資本主義の社会では、商品を販売すると言うことは、他のメーカーとの競争に勝たなければなりません。
そのためには、自社の商品のメリットを強調し、一方でデメリットは見せないようにしなければなりません。
時には、他社の商品をおとしめる必要が出てくるかもしれないのです。
もしあなたが、両親から「嘘をつかない」ことを言われ続けて、それが自分の内面に染みついているとしたらどうでしょうか。
あなたは、販売にかかわることとはいえ、事実をゆがめてアピールすることに抵抗を感じます。
仕事だから、ある程度は仕方がないと言い聞かせている大人のあなたがいる一方で、それに弱々しく反発を続ける自分を発見することでしょう。
あまり目立たないので、簡単に無視してしまうかもしれませんが、そのひそかな反発は、しかし毎回あなたに「何か間違っている」と訴え続けます。
その仕事を続けながら、あなたはなにか、仕事に嫌気を感じ始めます。
何かわからないけれど、やる気が出なかったり、嫌な気分になったりします。
もがいても、もがいても解決しないような夢をみるかもしれません。
仕事というのは、多かれ少なかれ、嫌なことがあるのは仕方がないと言い聞かせるかもしれませんが、いっこうに、あなたのこころは晴れないままです。
子どもの頃の思い込みに過ぎないと、軽く見ない方がいいかもしれません。
それがどの程度重大な影響を及ぼすかは、ひとりひとり違いますから、あなた自身にしかわからないことです。
ひょっとしたら、あなたが販売関係の部門から、別の業務に移って対外的なアピールにかかわらなくなったら、一気に元気を取り戻すかもしれません。
ひそかな反発は、日頃から観察する習慣をつけておくといいでしょう。
嫌々何かをやっているとき、何が反発しているのかを探してみましょう。
また、そのときの自分の身体の反応を、よく感じておきましょう。
おそらく、ゆったりとしている感じとは違いますね。
呼吸のスピードや深さはどうでしょうか、イライラする感じはどのように現れてきますか?
そのときよく思い浮か言葉や思考は何でしょうか?
なにか特定の信念やフレーズがあるでしょうか?
それを正しいと思っていますか?間違ったことだと言っている自分はいますか?
守るべきこと、あるいは逆に捨て去りたいと思っていますか?
小さな反発であっても、疎遠にならずに仲良くしておきましょう。
それが、とんでもなく大きなメリットをもたらしてくれるかもしれないのだから。
「善とはなにか、あとあじのよいことだ。悪とはなにか、あとあじの悪いことだ。」
ヘミングウェイ
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